相続相続って言うけど、一体何が引き継がれるの?

相続されるのはプラスの財産だけじゃない

相続されるのは「被相続人の財産に属した一切の権利義務」です。
これは、預金や土地建物の所有権といったプラスの財産のみならず、借金があれば借金も、家を売る契約をしていた場合、家を引き渡す義務も相続されます。

死亡によって消滅するとされているもの

ただし、当事者が亡くなることで、消滅する権利義務もあります。
これに当たる場合には、相続の対象とはなりません。
たとえば、代理契約をしていて、亡くなった人が代理人もしくは本人であった場合、代理権は消滅します。
使用貸借の借主であった場合(無料で何かを借りていたような場合)、借りる権利は消滅します。
誰かに何かを委任したりされたりしていた場合、その委任関係も消滅します。

一身専属権とは

被相続人の一身に専属した権利義務は、例外的に相続されないとされています。

どういったものがこれに当たるかというと、よく挙げられるのが、絵を描く債務や、演奏をする債務などですね。
たとえば、有名な画家やピアニストが、絵を描くという契約やピアノを演奏するという契約をしていた場合、本人が亡くなってそれを相続させて、相続した人に絵を描いてもらったり、ピアノを演奏してもらったりしても意味がないですから。
このように、本人がやってこそ意味があるような権利義務は、本人が亡くなると一緒に消滅します。

また、親権だったり扶養請求権といった権利も、本人と他者との関係性に基づく権利なので、相続の対象とするのが適切ではないと考えられるため、一身専属権に当たり、相続されません。


何があったら相続が始まるの?

亡くなった時

今日は、相続の原因についてお話したいと思います。
相続の原因というのは、何があったら相続が始まるのか?ということです。

まずは、誰かが亡くなった時です。
常識と言えるでしょう。

民法第882条は、
「相続は、死亡によって開始する」と規定しています。

現在は、原則は三兆候説(さんちょうこうせつ)というのがとられているので
・呼吸が止まって戻らないこと(呼吸の不可逆的停止)
・心臓が止まって戻らないこと(心臓の不可逆的停止)
・瞳孔の光反射がなくなること(瞳孔の拡散)
の3つが揃った時に、亡くなったと判断されます。

失踪宣告

民法には、本来の死亡の他に、擬制的に亡くなったものとみなす制度があります。
たとえば、夫が行方不明になり、帰ってこない時、いつまでも夫名義の土地や建物、預金を処分できないと、困りそうですよね。
そんな時のために定められているのが、失踪宣告(しっそうせんこく)という制度です。

生きているのか死んでいるのか分からなくなって(生死不明の状態)7年以上経つと、家族など、利害関係がある人は、裁判所に失踪宣告の請求ができます。
失踪宣告がなされると、行方不明になって7年経過した時点をもって、亡くなったものとみなされます。
これが、普通失踪の失踪宣告です。

普通があるということは、特別があるわけで、死亡した可能性が非常に高い場合には、1年間生死不明だと失踪宣告の請求ができます。
死亡した可能性が非常に高い場合として、戦地に臨んだ場合、沈没した船にいた場合などが挙げられています。
特別失踪の失踪宣告の場合には、普通失踪と異なり、1年間経過した時点ではなく、戦争が終わった後や、船が沈没した後など、危険な状態がおさまった時点で亡くなったものとみなされます。

認定死亡

また、似たような制度として、認定死亡というものもあります。
これは、戸籍法に基づく制度です。
水難、火災などで死亡した可能性が高い場合に、調査をした官公署の死亡報告に基づいて、戸籍上死亡したものと扱います。
死亡報告書記載の死亡日時において、亡くなったものとされます。

失踪宣告は、家庭裁判所が判断しますが、認定死亡は官公署が調査報告します。
また、仮に生きているのが証明された場合でも、失踪宣告の場合には失踪宣告取消しの審判を請求する必要がありますが、認定死亡の場合には、当然に取り消され、戸籍も修正されます。


カツオくんの遺産をタラオくんが受け取れる場合もあるんです

兄弟の子どもでも代襲できるんです

今日は、波平さん、フネさん、サザエさんが亡くなった状態でカツオくんが亡くなった場合です。
次々と、、、申し訳ありません。

さて、カツオくんの場合、配偶者もいなければ、両親である波平さんとフネさんもいないという設定にしたので、相続人は兄弟です。

ワカメちゃんと、生きていればサザエさんですね。
サザエさんも亡くなっているという設定なので、この場合には、ワカメちゃんとタラオくんで2分の1ずつとなります。

でも、兄弟の孫は…

ただし、亡くなった(あるいは欠格、廃除となった)相続人が兄弟の場合には、代襲までは認められますが、再代襲、再々代襲は認められていません。
タラオくんの子どもは代襲相続できないということですね。

あんまり遠い関係の人にまで代襲相続を認めてしまうと、あまり親交も無いのに得をする人が出てきてしまってよろしくないということで、適当なところで制限をしたのです。
もしですね、タラオくんの子どもが、可愛くて可愛くて仕方ない!!って、カツオくんが思っていた場合には、遺言で相続分を与えてあげればいいですからね。

マスオさんは?

ちなみに、波平さんが亡くなった時も、カツオくんが亡くなった時も、サザエさんの配偶者であるマスオさんについては、代襲相続は認められていません。
サザエさんが生きていたのであれば、サザエさんが相続して、その後配偶者であるマスオさんがそれを相続するという可能性もあるのですが、それでもマスオさんには代襲相続は認められていないのです。

代襲相続というのは、血縁の流れに沿って上から下に財産を流そうという価値観で定められたものだからとされています。
養子の連れ子に代襲相続が認められないのも、このためです。

タラオくんに兄弟がいた場合

タラオくんに兄弟がいた場合には、サザエさんが生きている場合の相続分を、兄弟の数で割ったものが相続分になります。
仮に2人兄弟だったとすると、先ほどの例のようにカツオくんが亡くなった場合には、ワカメちゃんが2分の1、タラオくんともう1人の兄弟が、4分の1ずつ相続することになります。


もしもサザエさんが亡くなってしまっても、タラオくんは波平さんの遺産の相続人になれます

親が亡くなると、代わりに相続できる?

もしサザエさんが亡くなってしまい、その後波平さんが亡くなった場合には、波平さんの遺産について配偶者であるフネさんが2分の1、子どもであるカツオくんとワカメちゃん、それにサザエさんの子どもであるタラオくんが6分の1ずつ法定相続分を有することになります。

サザエさんが仮に生きていたのであれば受け取れる遺産を、サザエさんの子どもに相続させる趣旨です。
代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。
ちなみに、サザエさんと波平さんが例えば事故等で同時に亡くなった場合も、タラオくんは代襲相続可能です。

欠格、廃除も含まれる

また、仮にサザエさんが亡くなったのではなく、欠格になったり、廃除されたりして相続権を失った場合も、同じようにタラオくんが代わりに相続することができます。

欠格も廃除も、その人自身について効力を有するものであって、その子どもや孫(直系卑属)にまで効力が及ぶものではないのです。
ただ、サザエさんが生きていて、自ら相続を放棄したような場合には、タラオくんが代わりに相続することはできません。

サザエさんの意思で相続しないのか、サザエさんの意思とは別の理由で相続することができないのかで、タラオくんが代わりに相続することができるかどうかが決まります。

もしもタラオくんに子どもがいたら

タラオくんが仮に成長していて、子どもがいたような場合で、サザエさんとタラオくんが亡くなった後に波平さんが亡くなった時には、さらにタラオくんの子どもが、波平さんの遺産を代わりに相続することができます。
再代襲といいます。
ちなみに、被相続人(この場合波平さん)に対して、元々の相続人(この場合サザエさん)が子どもであれば、再々代襲まで認められています。
タラオくんの孫までいけます。

養子の場合

養子でも代襲相続可能です。
ただですね、養子の場合には注意しなければならないことがありまして、例えば、ちょっとイメージしにくいと思うのですが、、、波平さんが、養子縁組をしていたとします。
養子にした人には、縁組前から子どもがいたとします。
養子の連れ子ですね。
そして、縁組後に養子に子どもが生まれたとします。
この場合だと、養子の連れ子(縁組前の子)は、(※原則として)波平さんの孫にはならないのですが、縁組後の養子の子どもは、波平さんの孫になるんです。
そうすると、代襲相続できるのは、波平さんについて、子どもであったり孫やひ孫だったりする人なので、縁組後の養子の子どもは代襲相続できるのですが、(※原則として)養子の連れ子には代襲相続する権利はありません。

※コメントをいただいたので追記します。
「代襲相続できるのは、波平さんについて、子どもであったり孫やひ孫だったりする人」というところがポイントなので、一つだけ例外があります。
養子の連れ子であっても、元々波平さんの孫やひ孫だった場合には、代襲相続する権利があります。
マスオさんが波平さんと養子縁組して養子になった場合には、タラオくんは元々波平さんの孫なので、例えばマスオさんが亡くなった後に波平さんが亡くなったような場合には、マスオさんの代わりに波平さんの遺産を相続することができます。


親にひどいことしたら、相続権を奪われるかも?

廃除

昨日は、法律で定められている相続人が、相続権を奪われる場合として、2つの場合のうちの1つである、欠格についてお話ししました。
今日は、相続をされる人(亡くなる人)(「被相続人」といいます)の意思によって、相続権が奪われる、廃除についてお話ししたいと思います。

廃除事由

たとえば、歳をとって体が思うように動かなくなった父を、子どもが虐待していたような場合、「この子には遺産をやりたくない」と思うのは、自然な感情ではないでしょうか。

被相続人に対して、虐待をしたり、ひどい侮辱をしたり、著しい非行があった時には、被相続人は、家庭裁判所に対して、その者を廃除するよう請求することができます。

具体的に、どのような場合がこれに当たるのかは、裁判所の判断によるのですが、継続的な暴力などがあると、認められやすい傾向にあると思います。

ちなみに、廃除の意思は、遺言によって示すこともできます。
また、一度廃除の請求をして、廃除されることが決まった場合でも、いつでも裁判所に取り消しの請求をすることができます。
あくまでも被相続人の意思に沿うためですね。

裁判所の判断が必要な理由

とはいえ、被相続人がどれほど廃除してほしいと請求しても、裁判所に認められない場合もあります。
それはなぜなのかというと、廃除の効果が、相続人から相続権を奪うというとても強いものだからです。

相続権を奪うということは、以前お話しした遺留分もなくなります。
遺言で、ある者に相続させるとした場合でも、遺留分は認められることを考えると、いくら被相続人の意思とはいえ、遺留分まで奪われるのには、ある程度みんなが納得できるような理由が求められるのです。
理不尽な理由で相続権を奪うことは認められていません。

兄弟姉妹は廃除できない

なお、兄弟姉妹は、廃除することができません。
これは、兄弟姉妹には遺留分がないためです。
遺留分がないのだから、あえて廃除の請求をしなくても、遺産に関して、他の人に全て相続させたり、兄弟姉妹には相続分を与えない旨の遺言をすれば、防げるので、認められていないのです。