先祖伝来の農地を、長男に相続させたい

遺留分

財産と呼べる財産は、先祖伝来の農地しかない。
だけど、子どもはABCの3人いる。
BCの2人はすでに都心で就職していて、農地に興味はないようだ。
農地の農業は長男Aが継ぐ予定で手伝っている。

そんな場合でも、子どもには遺留分があります。
全体で2分の1なので、ABCには、各6分の1の遺留分があります。

遺言で農地を長男Aには相続させるとのこしても、もしもBCが遺留分減殺請求をすると、農地の価格の6分の1をBCそれぞれに渡すなどしなければならず、父の望みを叶えることはできません。

遺留分の事前放棄

こういう場合にできることは、遺留分の事前放棄です。
「事前」なので、父が生きている間にできます。
ただですね、家庭裁判所の許可が必要です。
脅されたり、理不尽な理由で遺留分を取り上げられるのを防ぐためです。
家庭裁判所が、放棄する人(ここではBC)の真意に基づくものなのか、放棄する理由が客観的にみて妥当かどうかというのを判断します。
真意であって、理由が妥当であると認められれば、遺留分の事前放棄が許可されます。

遺言

ここで放棄が認められるのは、「遺留分」です。
「相続分」ではありません。
なので、Aが農地を単独で相続するには、もう一手間が必要です。
そう、「Aに農地を相続させる」旨の遺言です。

遺留分の事前放棄プラス遺言で、父はAに農地を単独で相続させることができるんです。


大きな声じゃ言えないけど、愛人に遺産をのこしてあげたい

不倫はいけないけど…

当然ですが、不倫はよくないです。
多分、しているご本人もよくわかっていると思います。
自分や周りの人間をボロボロにしますから。
ですが、いけないとわかっていても止められないこともあるのが人間です。
中には妻はいるけど別居をしていて、愛人と内縁関係にある人もいるかもしれません。

自分が亡くなった時に、愛人の生活が心配になる人もいるでしょう。
遺言を作っておいてあげれば、死後に財産をあげられる可能性があります。

なお、ここでは不倫相手のことを愛人と呼ばせていただきます。
表現が難しかったのですが、イメージしやすいと思いますので。

愛人への遺贈

今までも、愛人への遺贈が認められた例があります。
ですが、認められるには要件があります。
要件は、大きくまとめると3つです。

まずは、愛人関係を維持するための遺贈ではないことです。
愛人関係を維持するためのものであれば、公序良俗(民法90条)に反して無効となります。
民法90条、民法の良心といえる規定ですね。

次に、愛人の生計を、遺言をする人が支えていて、その生計を守るための遺贈であることです。
遺言をする人が亡くなった際に、愛人の生活の保障をする目的である必要があります。

最後に、その遺贈が本来の妻や子どもの生活を脅かすものではないことです。
そのため、「全財産を愛人にあげる」というような内容の遺言は無効です。


子どもがいない場合の相続

法定相続分

子どもがいない夫婦がいて、夫が亡くなった場合を考えてみましょう。
夫の両親が生きている場合には、法定相続分は妻が3分の2、両親が各6分の1なです。
夫の両親がすでに亡くなっていて、夫に2人の兄弟がいる場合には、法定相続分は妻が4分の3、2人の兄弟が各8分の1です。
夫の遺産が預金だけの場合には、法定相続分に従って分ければ円滑に遺産分割が可能でしょうが、不動産がいくつかあった場合はどうでしょうか。

夫の親族と妻は他人

言い方は悪いですが、夫の親族と妻は他人です。
子どもがいれば、夫の親族と妻との架け橋になる場合もあるでしょうが、そうでなければ、唯一の架け橋であった夫が亡くなったら、一層お互いに遠慮がなくなって感情的になる恐れがあります。
小さい頃から思い出を共有してきた兄弟であっても争いが起きたりするのですから、他人同士では言わずもがなですね。

遺言書がある場合

昨日のお話と重なるのですが、遺言書がある場合には、やはり亡くなった方の意思を汲んで多少の不満は我慢するのが人情だと思います。
愛する夫、子ども、兄弟の最後の想いですからね。
遺言書を書いておけば、自分が亡くなった後もなお、妻や夫と家族との架け橋となれるのではないでしょうか。


遺言書はお金持ちだけのもの?

相続?争族?

テレビのサスペンスなどでは、大富豪の何億もの遺産の行き先を記した遺言書を巡って、事件が繰り広げられたりしますよね。

では、遺言書が必要なのはお金持ちだけなのでしょうか?
必要かどうかはケースバイケースにはなりますが、遺産を巡って紛争が起きるのは、お金持ちに限ったことではありません。
むしろ、遺産がたくさんある方が、ある程度平等に分けられるといえます。

遺産は自宅の不動産と多少の預金のみという方も多いと思います。
でもそうなると、「一番価値の高い自宅を相続するのは自分だ」「管理などしないで売るつもりだろう」「不動産がもらえないなら預金は全額よこせ」などと限られた遺産を巡って争いになる恐れがあります。
相続のために、親族が争うことを揶揄して、「争族(そうぞく)」などと言ったりします。

遺言書がある場合

遺言書がある場合、もしも自分の相続分に不満があったとしても、亡くなった方の意思を汲んで、ある程度は我慢をして何も言わないのが人情だと思います。

基本的には、被相続人の意思が優先されるので、言い方は良くないですが、諦めがつくというのも重要ですね。
元々が仲の良い家族であれば、多少の不満があっても口に出さなければ、仲良く付き合っていけるでしょう。
ですが、もしかしたら言えばもらえるかもしれない状態だと、お互いにどんどん自分の取り分を主張して、仲が良かったのに仲が悪くなっていくことは十分考えられます。

遺言書は、相続を争族にしないための転ばぬ先の杖と言えるでしょう。


借金をみんなで相続したら

可分債務

貸したお金を返してもらう権利は、金銭を目的とする権利です。
金銭債権といいます。

これを、お金を返さなければならない側から見ると、金銭債務となります。
金銭債務のように数量的に分割ができるものは、可分債務といいます。

可分債務の相続

借金のような可分債務を相続した時、たとえば、300万円の借金を3人で相続した時、300万円を貸した人は、誰にいくら返済を請求できるでしょうか?
裁判所は、各相続人は相続分に応じて債務を相続すると判断しました。

そうすると、ABCが2:1:1の割合で借金を相続した場合には、その債権者はAには150万円、BとCにはそれぞれ75万円の限度で返済を請求できることになります。

賃料債務の場合

ですが、建物を借りている場合の賃料に関しては、相続人それぞれに全額を請求できるとされています。
賃料については、借りている部分全体を使用収益する権利があるためです。
ABC全員が借りている部屋などを使ったり又貸ししてして利益を得ることができるため、そのための賃料も全員が負担するべきであるという判断ですね。

もちろん、誰か1人が払ったらその債務は消滅しますので、もしAが全額払ったら、建物の貸主はBCに請求をすることはできません。