子どもなのに、親の遺産をもらえない場合もあります

相続人なのに、相続できない!

法律によって、相続人と定められている人でも、相続をできない場合があります。

たとえば、親を遺産目当てで殺害した子ども。
このような子どもが遺産を相続することは、納得いかない人の方が多いのではないでしょうか。

民法では、法律で定められた相続人から、相続人としての権利を奪う制度が定められています。
大きく分けると、「欠格(けっかく)」と「廃除(はいじょ)」です。

欠格は、欠格になる事項に当てはまると、法律上当然に相続権がなくなります。
廃除は、相続をされる人(亡くなる人)(「被相続人」といいます)の意思で、相続権を奪う制度です。

欠格事由

欠格になる事項として定められている行為は、全部で5つあります。

まず1つ目は、被相続人や、相続について自分より高い順位か、自分と同じ順位の相続人を殺した、もしくは殺そうとして、処罰された人です。
計画段階でも処罰されたのであればこれに当てはまります。
反対に、結果として死に至らしめたとしても、過失致死、障害致死など殺意がないものは、これにはあたりません。

2つ目は、被相続人が殺されたことを知っていながら、黙っていた人です。
ただ、善悪の判断をする能力のない人や、犯人がその人の配偶者や両親、祖父母、子供、孫など(直系血族)であった場合には、関係性を考えると犯人をかばって黙っているのも仕方ない、やむを得ないと評価されるため、これにはあたりません。

3つ目は、被相続人が、遺言に関する行為(作成、撤回、取り消し、変更など)をすることを、脅したり騙したりして邪魔をした人です。

4つ目は、3つ目と似ているのですが、被相続人を脅したり騙したりして、遺言に関する行為をさせた人です。

5つ目は、相続に関する被相続人の遺言書を偽造したり、いじったり、捨てたり隠したりした人です。
ただし、法律の条文上は要求されていないのですが、不当な利益を得ようとする目的がある場合にのみ、これに当てはまるとされています。
(最高裁判例昭和昭和56年4月3日)
なので、不当な利益を得る目的がない場合には、5つ目のケースには当たらず、欠格になりません。

明日は廃除についてお話したいと思います。


どんなに仲が良くても、遺言は別々に!

遺言は一人一人書きましょう

とっても仲良しのおじいさんとおばあさんがいました。
子どもが2人いましたが、2人とも都会に出て行ってほとんど帰って来ません。
亡くなった時のことを考えて、紙に「おじいさんが亡くなった時には、遺産は全ておばあさんに、おばあさんが亡くなった時には遺産は全ておじいさんに、2人とも亡くなった時には、土地と建物は長男に、残りの財産は次男に相続させる」という内容の遺言をおじいさんが書き、2人で署名押印をしました。

実はこの遺言は、無効になります。
民法は、2人以上の人が同じ証書で遺言することはできないと規定しています。
共同遺言といいます。

おばあさんについては、遺言の有効要件を満たさなかった場合

ちなみに、おじいさんに関しては、自筆証書遺言の要件を満たしますが、おばあさんは、全文を自筆で書いていないため、要件を満たしません。
しかし、この場合でも、共同遺言にあたると判断されています。
(最高裁判例 昭和56年9月11日)

共同遺言が禁止されている理由

いくら仲が良くても、遺言は個人の意思を残すものです。
真意である必要があります。
ですが、2人で同じ紙に書かれたものだと、どちらかがどちらかに脅されたり、気を遣ったりして、真意でない可能性も拭えません。
また、どちらかが撤回したいなと考えても自由がききません。
遺言というのは、遺言した人が亡くなった時に効力を生じるのですが、この遺言がいつ効力を生じるか(おじいさん亡くなった時なのか、おばあさんが亡くなった時なのか、2人とも亡くなった時なのか)、明確ではありません。
このように、共同遺言を認めてしまうと、困ったことが生じるのです。
また、別々に遺言をのこせば足りるのですから、あえて共同遺言を認める必要性もありません。
以上のような理由で、共同遺言は禁じられています。

内容が独立している場合

ちなみに、「おじいさんが亡くなったら、おじいさんの財産は全ておばあさんに相続させる」という内容とおじいさんの署名押印、「おばあさんが亡くなったら、おばあさんの財産は全ておじいさんに相続させる」という内容とおばあさんの署名押印といったように、それぞれ独立した内容の遺言を1枚の紙に残した場合、明確に分割できるために、遺言として有効となるのではないかという考え方もあります。

このような場合に、裁判所がどのように判断するのかは定かではありませんが、真意でない可能性があり得る点や、撤回が自由にできない点、また、あえて一枚の紙に残す必要性がないことを考えれば、無効とされる可能性は十分にあります。

ですので、どんなに仲良しだったとしても、遺言だけは1枚ずつ別々に書いてくださいね!


特殊な状況だからこそ、遺言をのこしたい時もありましょう

特別の方式の遺言

今日は、特別の方式の遺言4種類についてお話しします。
普通の方式の遺言では、厳格な方式が要求されているので、どうしても守れない場合もあります。
ですが、方式が守られていないことで、無効になるとすると、遺言をする人の意思が蔑ろになってしまいます。
そこで、特殊な状況下にある場合には、普通の方式の遺言の要件を少し緩和することを認めています。
それが、以下の4つの場合です。

いわゆる危篤状態の時

病気などによって、死が目前に迫っている人に認められているものです。
証人が3人必要です。
証人の1人に口頭で遺言の内容を伝え、書きつけてもらいます。
本人と他の証人に、書いた内容を確認してもらって、問題がなければ、証人全員が署名、押印をします。
その後、遺言をしてから20日以内に、裁判所に遺言者の真意であると判断してもらい、確認してもらう必要があります。

伝染病で隔離された時

伝染病のために行政処分によって隔離された場合には、警察官と証人各1人に立ち会ってもらって遺言書を作れます。
書き手に関しては、特に規定はありませんが、本人、警察官、証人、また筆記者が別にいる場合には筆記者も、署名と押印をする必要があります。
もし署名や押印ができない人がいる場合には、その理由も書いておく必要があります。

また、伝染病での隔離だけでなく、災害によって他の地域と隔絶されてしまった人や、刑務所に服役中の人にもこれが適用されて、上記の方式での遺言が認められるとされています。

船の中にいる人

船の中にいる人は、船長か事務員1人と、証人2人の立会いで遺言書を作ることができます。

この場合にも、書き手に関しては、特に規定はありませんが、本人、船長または事務員、証人2人、筆記者が別にいる場合には筆記者も、署名と押印をする必要があります。
署名や押印ができない人がいる場合には、その理由を書いておく必要があることも同様です。

船で遭難して、死が目前に迫っている人人

なかなかレアなケースだと思いますが、船に乗っていて遭難して、死にそうな場合に、遺言をのこしたい時の規定もあります。
証人2人に口頭で遺言をし、証人がその内容を筆記して、署名押印をします。
もし署名や押印ができない人がいる場合には、その理由を書いておく必要があるのは、前2つの場合と同じです。
その後、裁判所に遺言者の真意であると判断してもらい、確認してもらう必要があります。

上記4つの特殊な状況が解消した場合

例えば、なお、もし危篤状態から奇跡の回復をした場合や、服役中の人であれば出所した場合、船から無事地上に降り立った場合など、普通の方式の遺言をできるようになった場合には、その時から6ヶ月経つと遺言は無効となります。
できるのであれば、普通の方式でやりなさいということですね。


一口に遺言といっても、いろいろやり方があるんです

遺言の方式

今日は遺言の話をさせていただきます。
遺言と一言にいっても、いろいろな方式があります。

一般的なもので3種類。
それ以外に、特別な方式の遺言として4種類。
全部で7種類が、民法で規定されています。

自筆証書遺言

「遺言状」といって、最もイメージされやすいのは、「自筆証書遺言」でしょうか。

文字通り、遺言をする人が、自分自身の字で書いた遺言です。
全文、日付、氏名が自筆で書かれていなければならず、押印も必要です。

公正証書遺言

次にイメージされやすいのは、「公正証書遺言」でしょうか。

公正証書遺言は、公証人に作ってもらいます。
基本的には、証人となる人を2人連れて公証役場に行きます。
内容を公証人に伝え、それを筆記してもらい、本人と証人が確認して、問題がなければ、各自署名と押印をします(本人が署名できない場合には、公証人がその旨を書きます)。
最後に、公証人が上記の方式に従って作ったことを記入して、署名押印をします。

秘密証書遺言

もう一つ、「秘密証書遺言」というものもあります。
少しややこしいのですが、まず、遺言を作成します。
これは、自筆証書遺言と違って、本文は自筆でなくても問題ありません。
ただし、署名と押印は必要です。
署名と押印済んだら、封筒に入れて、封をします。
封には先ほど署名と一緒に押した印鑑を使う必要があります。
公正証書遺言と同じように、証人2人と公証人に封筒を見せ、自分の遺言書(遺言状)であることと、名前と住所を伝えます。
公証人は、封筒を見せられた日付と、本人の言ったこと(誰々の遺言である旨と住所)を封筒に書いて、本人と証人2人、公証人の全員が署名と押印をします。

これら3つが、普通の方式の遺言とされています。


「マスオさんに全財産を相続させる」→他の人はもらえないの?

通常のサザエさん家族の場合

昨日は、遺留分というものがあって、必ずしも全財産をマスオさんに残すことはできないのだ、というお話をしました(マスオさんが全財産を相続することはできるのか?)。
サザエさんが「マスオさんに全財産を相続させる」と遺言をのこしたとしても、タラオ君は全財産の1500万円のうち、375万円は自分がもらう!と言えるのだということですね。

今日は、その375万円というのは、どこから出てくるのか?というお話です。

これについては、民法第1028条が定めています。

第1028条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

またケースごとに当てはめてみましょう。

まずは、通常のサザエさん家族の場合。
相続人は、マスオさんとタラオ君です。

相続人がマスオさんとタラオ君の場合、「直系尊属のみが相続人である場合」という第1号が当てはまらないので、それ以外の場合ということで、2号になります。
そうすると、サザエさんの財産の2分の1が全体としての遺留分になります。
タラオ君の遺留分を求めるには、そこにさらにタラオ君の法定相続分をかける必要があります。
(法定相続分についてはこちら→サザエさんで考える法定相続分

この場合、全体の遺留分2分の1かけるタラオ君の法定相続分2分の1なので、4分の1がタラオ君の遺留分です。
サザエさんの全財産が1500万円という前提なので、タラオ君の遺留分は、375万円ということになります。

タラオ君がいない場合

では次に、タラオくんがいない場合はどうでしょうか。
相続人は、マスオさん、波平さん、フネさんの3名です。

この場合も、直系尊属(両親や、祖父母)だけでなく配偶者であるマスオさんも相続人となるので、全体の遺留分は2分の1になります。
これに波平さん、フネさんの法定相続分をかけます。
彼らの法定相続分は各6分の1なので、1500万円の12分の1である各125万円が波平さんとフネさんの遺留分になります。

タラオ君も波平さんもフネさんもいない場合

では次に、タラオ君も波平さんもフネさんもいない場合です。
この場合には、マスオさんとカツオ君とワカメちゃんが相続人になります。
しかし、「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として~~」とある通り、兄弟姉妹には、遺留分は認められていません。
なので、この場合には、もし「マスオさんに全財産を相続させる」と遺言があれば、カツオ君やワカメちゃんがサザエさんの財産を相続することはできないのです。

では、第1号はどのような場合に使うのか?

また、今回は「マスオさんに全財産を相続させる」という遺言がある場合を想定したので、出てこなかったのですが、第1号が想定する場面は、以下のような場合です。
マスオさんもタラオ君もいなくて、サザエさんが「全財産を波平さんに相続させる」とのこしていたような場合です。

この場合には、相続人は波平さんとフネさんの2人となり、「直系尊属のみが相続人である場合」なので、第1号に当てはまります。
そうすると、全体としての遺留分は3分の1です。
相続人が波平さんとフネさん2人の場合、フネさんの法定相続分は2分の1です。
ですので、フネさんの遺留分は、全体としての遺留分3分の1かける法定相続分2分の1で、1500万円の6分の1である250万円となるのです。