特別受益
波平さんが亡くなった場合には、フネさんに2分の1、サザエさんとカツオくん、ワカメちゃんに6分の1ずつの法定相続分があります。
仮に、波平さんの遺産が3000万円だとします。
この場合、フネさんに1500万円、サザエさん、カツオくん、ワカメちゃんに500万円ずつ相続されるのが原則です。
ただ、波平さんが生前、ワカメちゃんが結婚するのに際し、600万円を贈与していて、一方でカツオくんやサザエさんにはそのような援助はなかったとします。
こういったワカメちゃんの利益を、特別受益といいます。
この場合に、ワカメちゃんもカツオくんやサザエさんと同じように500万円ずつ相続できるとなると、不公平だと感じる人も多いのではないでしょうか?
特別受益の持戻し
そこで、このような場合、波平さんの遺産の3000万円に一度ワカメちゃんの特別受益600万円を戻して、3600万円を相続財産として計算をすることとされています。
その結果、フネさんが1800万円、サザエさんとカツオくんが600万円、ワカメちゃん0円が、相続分となります。
ワカメちゃんの分も、3600万円の6分の1で観念的には600万円なのですが、すでに600万円をもらっているため、差し引かれて0円となります。
足りない場合
ワカメちゃんがもらったのが3000万円だった場合、波平さんの相続財産を6000万円として計算しますが、その場合ワカメちゃんの相続分は、観念的には1000万円となります。
そうすると、2000万円足りなくなりますよね。
この場合も、ワカメちゃんの相続分は0円です。
残りの3000万円を、フネさん、サザエさん、カツオくんで3:1:1、それぞれ5分の3、5分の1、5分の1ずつ分けることになりますので、フネさんが1800万円、サザエさん、カツオくんがそれぞれ600万円相続することになります。
同時存在の原則
被相続人が亡くなった時に生きて存在している人でなければ、相続人にはなれません。
同時存在の原則といいます。
たとえば、波平さんが亡くなった時、その前にサザエさんが亡くなっていたとすると、サザエさんは波平さんの相続人にはなれません。
そうすると、波平さんの遺産をサザエさんが相続することはないので、サザエさんの配偶者のマスオさんには、波平さんの遺産は一切相続できないことになります。
ちなみに、タラオくんは代襲相続ができますので、サザエさんが先に亡くなっていた場合、サザエさんの代わりに波平さんの遺産を相続できます。
胎児の場合の例外
同時死亡の原則には、一つだけ例外があります。
通常は、人が権利義務を持つのは生まれた時です。
ですが、胎児は相続についてはすでに生まれたものとみなすと規定されています。
なので、たとえば被相続人が亡くなった時に胎児の状態の子どもがいれば、相続人となれます。
ただし、万が一胎児が死体で生まれた時は、はじめから相続人とならなかったものとして扱われます。
同時死亡の推定
「同時」が付いていてちょっと似ているのですが、同時死亡の推定というのもあります。
飛行機事故や船の事故で、どちらが先に亡くなったのかわからないような場合には、同時に亡くなったものと推定する決まりです。
波平さんが先に亡くなって、そのあとサザエさんが亡くなった場合には、波平さんの遺産をサザエさんが相続し、さらにそれを益男さんが相続し、と実質的に波平さんの遺産がマスオさんに渡るようになります。
しかし同時に死亡した場合には、波平さんの遺産はサザエさんに渡らないので、マスオさんが相続できるのはサザエさんの遺産のみとなります。
宙ぶらりんの財産の行き先
合計10ヶ月以上の期間を経ても相続人が現れなかった場合、昨日お話しした特別縁故者として分与を申し立てる人を待つ期間に入ります。
3ヶ月です。
もし、その間に申立てる人がいなかった場合、もしくは、申立てをしても特別縁故者であって分与が相当と認められなかったり、分与されたとしても残余の財産がある場合には、どうなるでしょうか?
共有持分
まず、他の誰かと共有している財産がある場合には、民法に特別の規定があって、死亡した者の持分は他の共有者に帰属するとされています。
たとえば、ABとともに、3分の1ずつの持分で不動産を所有している場合には、ABに6分の1ずつ帰属し、ABが各2分の1の持分で共有することになります。
ちなみに、共有持分も、特別縁故者への財産分与の対象となるかどうかが議論されていたのですが、最高裁判所が財産分与の対象となるということを判断し、決着がついています。
ですので、共有持分が他の共有者に帰属するのは、特別縁故者の財産分与がなされなかった場合のお話になります。
共有持分以外
さて、それ以外の財産は全て、国庫に帰属するとされています。
相続人がいなくて、債権者や受遺者には全て行き渡って、特別縁故者にも行き渡るか、もしくは存在しなくて、共有持分は他の共有者に渡って、それでも余っていた場合には、国のものです。
ようやく相続財産法人は消滅します。
相続財産管理人は、その間の収支の計算をして、仕事を終えることになります。
相続財産の分与
合計10ヶ月以上の期間を経て相続人がいないことが確定した場合、そこから3ヶ月以内であれば、自分は「特別縁故者」ですという主張をする人は、家庭裁判所に相続財産分与の申し立てをすることができます。
特別縁故者とは
では、特別縁故者とはなんなのか?
相続人ではないけれど、事実上特別な関係にあった人というイメージです。
民法では、
・被相続人と生計を同じくしていた者、
・被相続人の療養看護に努めた者、
・その他被相続人と特別の縁故があった者
としています。
実際は、裁判所の判断に委ねられます。
具体的には?
わかりやすいのは、内縁の妻ですかね。
あとは、事実上の養親や養子、未認知の子ども、報酬以上に献身的に看護に尽くしてきた付き添い看護師などが、今までに認められてきています。
ただ、認められるかどうかというのは本当に裁判所の判断次第です。
家庭裁判所が、特別縁故者に当たることを認め、財産を分与することが相当であると判断した場合に初めて権利が付与されます。
分与が相当であるとされても、相続財産の全てなのか一部なのか、内容や方法、程度など、具体的なものは全て裁判所が様々な要素を考慮して決定します。
ちなみに、特別縁故者に当たるであろう人が、その申立てをする前に死亡した場合には、特別縁故者に当たるであろう人の相続人であっても、その地位を引き継ぐことはできません。
先ほど言ったように、家庭裁判所が認めて初めて権利が付与されるものなので、申立て前に亡くなった場合には、権利自体が発生していないためです。
相続人が現れた場合
相続財産管理人が選任されてから2ヶ月、債権の申出の期間2ヶ月以上、相続人がいるなら名乗り出てくださいという公告(相続人の捜索の公告と言われます)6ヶ月以上、合計すると10ヶ月以上はあります。
この期間内に、もし相続人が名乗り出た場合には、相続財産法人は、最初から存在しなかったものとして扱われます。
相続人がいるのであれば、最初からその者が相続財産を引き継いだことになるため、相続財産法人などというものをあえて観念する必要はないからです。
最初からなかったことになるため、管理や清算の手続きも廃止されます。
既に行った行為
しかし、相続財産管理人が、既に行った行為に関しては、無効にはなりません。
たとえば、清算の手続きの中で不動産を売却して現金を配当していたような場合、相続人が現れたことによって買った家が取り戻されてしまったら、買主は困ってしまいますよね。
また、配当を受けていた債権者も、これを取り戻されるとなると困ってしまいます。
なので、こういった既に行った行為は、有効なままです。
相続財産管理人の最後のお仕事
相続人が現れて相続を承認した場合、相続財産管理人は、管理していた期間中に生じた収支を全て計算して、相続人に報告しなければなりません。
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