「マスオさんに財産の全てを相続させる」という遺言はのこせるのか?
昨日は、サザエさんのお家の法定相続分についてお話ししました(サザエさんで考える法定相続分)。
今回は、もしサザエさんが「マスオさんに財産の全てを相続させる」という遺言を書いていたら、その通りになるのか?というお話です。
ここで出てくるのが、「遺留分」です。
「いりゅうぶん」と読みます。
遺留分というのは、遺言などに関わらず、相続財産の一部を相続人がもらえるようにしてくれる制度です。
サザエさんの意思は大事にされるべきですが、同時に他の家族の生活や公平性も大事です。
いわば妥協案として、基本的にはサザエさんの意思を尊重しつつ、でもちょっとは他の家族に、、、という制度なんです。
遺留分を無視した遺言
民法では、第902条第1項が、法定相続分を無視して、遺言で相続分を定めていいよ、ということを記載しています。
しかし、そのあと、でもね、と。
遺留分に関する規定に反するのはダメよ、と言っています。
第902条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
では、「マスオさんに財産全てを相続させる」という遺言は、のこせるのでしょうか。
先ほどの902条に反して、遺言自体が無効になるんじゃないか?とそういうふうにも読めるんですよね。
でも、これについては、無効にはならないとされています。
遺留分なんて意識しないで、自分の気持ちで「全額を」と書く人は多いでしょうからね。
遺言自体を無効にしてしまうと、902条が大事にしようとしていた亡くなった人の意思が台無しですもの。
ちなみに、マスオさんもタラオくんもいるのに、「マスオさんに全額相続させる」とした場合のタラオくんの遺留分は375万円です。
(算出方法については明日にでもまた)
遺留分の部分
では、「マスオさんに財産の全額を相続させる」という遺言自体は有効だとして、タラオくんの遺留分に関するところだけ効力がなくなって、375万円はタラオくんが、残りの1125万円をマスオさんが相続するようになるのでしょうか?
これも、実はノーなのです。
民法第1031条は、遺留分の権利を持っている人は、自分の遺留分を守るために必要な限度で、「相続させる」という遺言の効果を減らすように請求できるとしています。
第1031条
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
タラオくんは、375万円について、そこだけ効力無くしてー!と、請求できるんです。
このようなタラオくんの権利を、「遺留分減殺請求権」といいます。
「いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん」です。
タラオくんが請求しなければ、マスオさんは1500万円全額を相続できることになります。
遺留分はあるものの、それをもらうかどうかはタラオくんの意思に委ねるのですね。