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子どもがいない場合の相続

法定相続分

子どもがいない夫婦がいて、夫が亡くなった場合を考えてみましょう。
夫の両親が生きている場合には、法定相続分は妻が3分の2、両親が各6分の1なです。
夫の両親がすでに亡くなっていて、夫に2人の兄弟がいる場合には、法定相続分は妻が4分の3、2人の兄弟が各8分の1です。
夫の遺産が預金だけの場合には、法定相続分に従って分ければ円滑に遺産分割が可能でしょうが、不動産がいくつかあった場合はどうでしょうか。

夫の親族と妻は他人

言い方は悪いですが、夫の親族と妻は他人です。
子どもがいれば、夫の親族と妻との架け橋になる場合もあるでしょうが、そうでなければ、唯一の架け橋であった夫が亡くなったら、一層お互いに遠慮がなくなって感情的になる恐れがあります。
小さい頃から思い出を共有してきた兄弟であっても争いが起きたりするのですから、他人同士では言わずもがなですね。

遺言書がある場合

昨日のお話と重なるのですが、遺言書がある場合には、やはり亡くなった方の意思を汲んで多少の不満は我慢するのが人情だと思います。
愛する夫、子ども、兄弟の最後の想いですからね。
遺言書を書いておけば、自分が亡くなった後もなお、妻や夫と家族との架け橋となれるのではないでしょうか。


遺言書はお金持ちだけのもの?

相続?争族?

テレビのサスペンスなどでは、大富豪の何億もの遺産の行き先を記した遺言書を巡って、事件が繰り広げられたりしますよね。

では、遺言書が必要なのはお金持ちだけなのでしょうか?
必要かどうかはケースバイケースにはなりますが、遺産を巡って紛争が起きるのは、お金持ちに限ったことではありません。
むしろ、遺産がたくさんある方が、ある程度平等に分けられるといえます。

遺産は自宅の不動産と多少の預金のみという方も多いと思います。
でもそうなると、「一番価値の高い自宅を相続するのは自分だ」「管理などしないで売るつもりだろう」「不動産がもらえないなら預金は全額よこせ」などと限られた遺産を巡って争いになる恐れがあります。
相続のために、親族が争うことを揶揄して、「争族(そうぞく)」などと言ったりします。

遺言書がある場合

遺言書がある場合、もしも自分の相続分に不満があったとしても、亡くなった方の意思を汲んで、ある程度は我慢をして何も言わないのが人情だと思います。

基本的には、被相続人の意思が優先されるので、言い方は良くないですが、諦めがつくというのも重要ですね。
元々が仲の良い家族であれば、多少の不満があっても口に出さなければ、仲良く付き合っていけるでしょう。
ですが、もしかしたら言えばもらえるかもしれない状態だと、お互いにどんどん自分の取り分を主張して、仲が良かったのに仲が悪くなっていくことは十分考えられます。

遺言書は、相続を争族にしないための転ばぬ先の杖と言えるでしょう。


借金をみんなで相続したら

可分債務

貸したお金を返してもらう権利は、金銭を目的とする権利です。
金銭債権といいます。

これを、お金を返さなければならない側から見ると、金銭債務となります。
金銭債務のように数量的に分割ができるものは、可分債務といいます。

可分債務の相続

借金のような可分債務を相続した時、たとえば、300万円の借金を3人で相続した時、300万円を貸した人は、誰にいくら返済を請求できるでしょうか?
裁判所は、各相続人は相続分に応じて債務を相続すると判断しました。

そうすると、ABCが2:1:1の割合で借金を相続した場合には、その債権者はAには150万円、BとCにはそれぞれ75万円の限度で返済を請求できることになります。

賃料債務の場合

ですが、建物を借りている場合の賃料に関しては、相続人それぞれに全額を請求できるとされています。
賃料については、借りている部分全体を使用収益する権利があるためです。
ABC全員が借りている部屋などを使ったり又貸ししてして利益を得ることができるため、そのための賃料も全員が負担するべきであるという判断ですね。

もちろん、誰か1人が払ったらその債務は消滅しますので、もしAが全額払ったら、建物の貸主はBCに請求をすることはできません。


子どもでも遺言できる?

遺言能力

遺言は、遺言の内容を理解して、それがどのような結果をもたらすのかを考えられる程度の能力が必要であるとされます。
遺言能力といいます。

民法では15歳以上であれば遺言をすることができると定めています。
大体それくらいの年齢になれば、遺言能力が備わるだろうという考えですね。

法律行為との比較

ちなみに、法律行為(契約をしたり、お金を借りたり貸したりといった行為)は、未成年は単独で行うことはできません。
法定代理人の同意が必要です。
法律行為を未成年が単独で行えないのは、それによって損害を受けるかもしれない未成年を保護するためです。

遺言は、基本的には遺言をした人が亡くなった際に効力が生じるものなので、保護する必要性はありません。
また、法律行為を単独で行えない人であっても、本人の意思はできる限り尊重されるべきです。
自ら行うべきものなので、代理などに馴染むものではありません。

そのため、行為能力とは別に、遺言能力という概念があるのです。

遺言能力が必要な時

遺言能力は、遺言を作成した時に備わっている必要があります。
15歳以上であっても、遺言能力がないと認められる場合には、遺言は無効となります。

また、成年被後見人(物事を考えて理解する能力に欠ける常況にあると判断されている人)の場合には、遺言をする時に思考がはっきりして遺言能力があることが必要なので、医師2人以上が立ち会って、遺言能力があった旨を遺言書に付記して、署名押印をする必要があります。


遺言書を開けたら5万円取られる!?

遺言書が見つかったら

被相続人が亡くなったあと、遺言書が見つかった場合には、速やかに家庭裁判所に提出して、「検認」を請求しなければなりません。
「けんにん」です。
また、遺言書を保管していた人が、被相続人が亡くなったことを知った場合にも、同様に検認を請求しなければなりません。

ただし、公正証書遺言の場合には、検認は不要です。

検認

検認では、相続人に対して遺言があることや、その内容を知らせます。
また、検認をした日における遺言書の内容(日付や署名など)や状態を確認します。

遺言の有効性を判断するものではありません。
偽造されたり、改変されたりなど、遺言書が後から変にいじられることを防止するための手続きです。

検認を怠った場合

もしも遺言を提出しなかったり、検認をせずに遺言を執行したり、家庭裁判所以外で開けてしまうと、5万円以下の過料に処されるおそれがあります。

過料というのは、罰金のようなものです。
ただ、過料は秩序罰なので、厳密に言うと、刑罰である罰金とは異なります。
罰金は前科がつきますが、過料はつきません。
読み方は「かりょう」ですが、科料(こちらは刑罰です。罰金よりも少額のものを科料といいます。)と区別するために「あやまちりょう」と呼ばれることもあります。