「相続」カテゴリーアーカイブ

一口に遺言といっても、いろいろやり方があるんです

遺言の方式

今日は遺言の話をさせていただきます。
遺言と一言にいっても、いろいろな方式があります。

一般的なもので3種類。
それ以外に、特別な方式の遺言として4種類。
全部で7種類が、民法で規定されています。

自筆証書遺言

「遺言状」といって、最もイメージされやすいのは、「自筆証書遺言」でしょうか。

文字通り、遺言をする人が、自分自身の字で書いた遺言です。
全文、日付、氏名が自筆で書かれていなければならず、押印も必要です。

公正証書遺言

次にイメージされやすいのは、「公正証書遺言」でしょうか。

公正証書遺言は、公証人に作ってもらいます。
基本的には、証人となる人を2人連れて公証役場に行きます。
内容を公証人に伝え、それを筆記してもらい、本人と証人が確認して、問題がなければ、各自署名と押印をします(本人が署名できない場合には、公証人がその旨を書きます)。
最後に、公証人が上記の方式に従って作ったことを記入して、署名押印をします。

秘密証書遺言

もう一つ、「秘密証書遺言」というものもあります。
少しややこしいのですが、まず、遺言を作成します。
これは、自筆証書遺言と違って、本文は自筆でなくても問題ありません。
ただし、署名と押印は必要です。
署名と押印済んだら、封筒に入れて、封をします。
封には先ほど署名と一緒に押した印鑑を使う必要があります。
公正証書遺言と同じように、証人2人と公証人に封筒を見せ、自分の遺言書(遺言状)であることと、名前と住所を伝えます。
公証人は、封筒を見せられた日付と、本人の言ったこと(誰々の遺言である旨と住所)を封筒に書いて、本人と証人2人、公証人の全員が署名と押印をします。

これら3つが、普通の方式の遺言とされています。


「マスオさんに全財産を相続させる」→他の人はもらえないの?

通常のサザエさん家族の場合

昨日は、遺留分というものがあって、必ずしも全財産をマスオさんに残すことはできないのだ、というお話をしました(マスオさんが全財産を相続することはできるのか?)。
サザエさんが「マスオさんに全財産を相続させる」と遺言をのこしたとしても、タラオ君は全財産の1500万円のうち、375万円は自分がもらう!と言えるのだということですね。

今日は、その375万円というのは、どこから出てくるのか?というお話です。

これについては、民法第1028条が定めています。

第1028条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

またケースごとに当てはめてみましょう。

まずは、通常のサザエさん家族の場合。
相続人は、マスオさんとタラオ君です。

相続人がマスオさんとタラオ君の場合、「直系尊属のみが相続人である場合」という第1号が当てはまらないので、それ以外の場合ということで、2号になります。
そうすると、サザエさんの財産の2分の1が全体としての遺留分になります。
タラオ君の遺留分を求めるには、そこにさらにタラオ君の法定相続分をかける必要があります。
(法定相続分についてはこちら→サザエさんで考える法定相続分

この場合、全体の遺留分2分の1かけるタラオ君の法定相続分2分の1なので、4分の1がタラオ君の遺留分です。
サザエさんの全財産が1500万円という前提なので、タラオ君の遺留分は、375万円ということになります。

タラオ君がいない場合

では次に、タラオくんがいない場合はどうでしょうか。
相続人は、マスオさん、波平さん、フネさんの3名です。

この場合も、直系尊属(両親や、祖父母)だけでなく配偶者であるマスオさんも相続人となるので、全体の遺留分は2分の1になります。
これに波平さん、フネさんの法定相続分をかけます。
彼らの法定相続分は各6分の1なので、1500万円の12分の1である各125万円が波平さんとフネさんの遺留分になります。

タラオ君も波平さんもフネさんもいない場合

では次に、タラオ君も波平さんもフネさんもいない場合です。
この場合には、マスオさんとカツオ君とワカメちゃんが相続人になります。
しかし、「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として~~」とある通り、兄弟姉妹には、遺留分は認められていません。
なので、この場合には、もし「マスオさんに全財産を相続させる」と遺言があれば、カツオ君やワカメちゃんがサザエさんの財産を相続することはできないのです。

では、第1号はどのような場合に使うのか?

また、今回は「マスオさんに全財産を相続させる」という遺言がある場合を想定したので、出てこなかったのですが、第1号が想定する場面は、以下のような場合です。
マスオさんもタラオ君もいなくて、サザエさんが「全財産を波平さんに相続させる」とのこしていたような場合です。

この場合には、相続人は波平さんとフネさんの2人となり、「直系尊属のみが相続人である場合」なので、第1号に当てはまります。
そうすると、全体としての遺留分は3分の1です。
相続人が波平さんとフネさん2人の場合、フネさんの法定相続分は2分の1です。
ですので、フネさんの遺留分は、全体としての遺留分3分の1かける法定相続分2分の1で、1500万円の6分の1である250万円となるのです。


マスオさんが全財産を相続することはできるのか?

「マスオさんに財産の全てを相続させる」という遺言はのこせるのか?

昨日は、サザエさんのお家の法定相続分についてお話ししました(サザエさんで考える法定相続分)。
今回は、もしサザエさんが「マスオさんに財産の全てを相続させる」という遺言を書いていたら、その通りになるのか?というお話です。

ここで出てくるのが、「遺留分」です。
「いりゅうぶん」と読みます。

遺留分というのは、遺言などに関わらず、相続財産の一部を相続人がもらえるようにしてくれる制度です。

サザエさんの意思は大事にされるべきですが、同時に他の家族の生活や公平性も大事です。
いわば妥協案として、基本的にはサザエさんの意思を尊重しつつ、でもちょっとは他の家族に、、、という制度なんです。

遺留分を無視した遺言

民法では、第902条第1項が、法定相続分を無視して、遺言で相続分を定めていいよ、ということを記載しています。
しかし、そのあと、でもね、と。
遺留分に関する規定に反するのはダメよ、と言っています。

第902条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。

では、「マスオさんに財産全てを相続させる」という遺言は、のこせるのでしょうか。
先ほどの902条に反して、遺言自体が無効になるんじゃないか?とそういうふうにも読めるんですよね。

でも、これについては、無効にはならないとされています。
遺留分なんて意識しないで、自分の気持ちで「全額を」と書く人は多いでしょうからね。
遺言自体を無効にしてしまうと、902条が大事にしようとしていた亡くなった人の意思が台無しですもの。

ちなみに、マスオさんもタラオくんもいるのに、「マスオさんに全額相続させる」とした場合のタラオくんの遺留分は375万円です。
(算出方法については明日にでもまた)

遺留分の部分

では、「マスオさんに財産の全額を相続させる」という遺言自体は有効だとして、タラオくんの遺留分に関するところだけ効力がなくなって、375万円はタラオくんが、残りの1125万円をマスオさんが相続するようになるのでしょうか?
これも、実はノーなのです。

民法第1031条は、遺留分の権利を持っている人は、自分の遺留分を守るために必要な限度で、「相続させる」という遺言の効果を減らすように請求できるとしています。

第1031条
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

タラオくんは、375万円について、そこだけ効力無くしてー!と、請求できるんです。

このようなタラオくんの権利を、「遺留分減殺請求権」といいます。
「いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん」です。

タラオくんが請求しなければ、マスオさんは1500万円全額を相続できることになります。
遺留分はあるものの、それをもらうかどうかはタラオくんの意思に委ねるのですね。


サザエさんで考える法定相続分

民法第900条の法定相続分について、サザエさんで考える

ファンの方には申し訳ないのですが、サザエさんが亡くなった場合を仮定して、また財産が1500万円のみであると仮定して、法定相続分について考えたいと思います。

まず、サザエさんの配偶者(夫)は、マスオさんです。
子どもは一人で、タラオくんです。
弟のカツオくんと、妹のワカメちゃんがいます。
ご両親は、波平さんとフネさんです。

さて、サザエさんが仮に亡くなって、遺言書で相続分が指定されている時には、基本的にはその意思に沿って決定されます。
しかし、そうでない場合には、法律で相続分というのが決められています。
法律で決められているので、「法定相続分」です。
その法定相続分について定めているのが、民法第900条ですね。

第900条
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

また、遺言書で指定されていたとしても、相続人の一部の相続分だけを定めていた場合には、他の相続人の相続分に関しては、法定相続分によることになります。

たとえば、「マスオさんに1000万円を相続させる」といった場合には、残りの500万円については、他の相続人の相続分は、法定相続分によります。

民法第900条第1号

では、まず第1号について、見てみます。

通常のサザエさんだと、マスオさんもタラオくんも存在するため、第1号にあたります。

この場合、マスオさんとタラオくんが相続人になり、750万円ずつ相続することになります。
波平さん、フネさん、カツオくん、ワカメちゃんには相続分はありません。

また、マスオさんがいない場合には、相続人はタラオくん一人となり、タラオくんが1500万円全額を相続します。
波平さん、フネさん、カツオくん、ワカメちゃんには相続分はありません。

民法第900条第2号

では次に第2号。
これは、タラオくんがいない場合を想定したものです。
相続人は、マスオさん、波平さん、フネさんの3名です。
この場合には、マスオさんに1000万円の相続分があり、残りの500万円を波平さんとフネさんで均等に分けることになります。
マスオさん1000万円、波平さん250万円、フネさん250万円といった具合です。
この場合も、カツオくんとワカメちゃんには相続分はありません。

民法第900条第3号

では、次に第3号です。
これは、タラオくんも波平さんもフネさんもいない場合です。
相続人は、マスオさん、カツオくん、ワカメちゃんです。
マスオさんに1125万円、のこりの375万円を、カツオくんとワカメちゃんで均等に分けることになります。
なので、マスオさん1125万円、カツオくん187万5000円、ワカメちゃん187万5000円の相続分になります。

民法第900条第4号

ここでちょっと番外編です。
民法第900条第1項には第4号もありまして、先ほどの、「カツオくんとワカメちゃんが均等に」という部分に影響してくるのですが、その最後の方ですね、
「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする」とあります。
先ほどの例で、もしもワカメちゃんが波平さんの子どもではなかった場合(例なので、ファンの方、本当に申し訳ありません)、375万円は、カツオくん2:ワカメちゃん1の割合で分けることになります。
従って、カツオくん250万円、ワカメちゃん125万円の相続分になるんですね。

法律の文章は、すごく抽象的で分かりにくいのですが、具体的な考えてみると分かりやすいのではないでしょうか。