遺産分割の方法

現物分割

遺産はどのように分割したら良いのか?
まず、現物分割という方法があります。
遺産を、そのままの形で分配することです。
土地はAに、建物はBに、預金はCにといったやり方だったり、大きな土地であれば、いくつかに分筆してそれぞれに配分するのも現物分割になります。
分筆というのは、登記簿上で土地を分けることです。
それぞれの遺産の社会的経済的価値をあまり損なわずに分けられるのがメリットです。
ただ、前の例でいうと、土地や建物、預金の価値が同じ場合は少ないでしょうから、相続人間で公平に分けづらいのが問題ですね。

換価分割

前の例でいうと、土地も建物も全部売り払って、その売却代金を平等に分けるやり方です。
公平には分けられるのですが、高値で売りたい場合には時間がかかりがち、早急に売りたい場合には安値になりがちと、売却をしなければ分けられないため、値段と時間との折り合いをつけなければならないのがデメリットでしょうか。

理論的にはわかりやすい方法ではあるのですが、あまり利用されていないようです。
被相続人の残したものを全てお金に換えて分けるというのが、なんとなく心地悪いのかもしれませんね。

そのほかの分割方法に、代償分割と用益権の設定による分割、共有による分割といった方法があります。
それらについては、明日またお話ししたいと思います。


遺産分割の理念

「相続させる」旨の遺言

昨日は、遺産分割がなされるまでは、原則として遺産は相続人全員の共有になるというお話をしました。

ただし、「不動産は誰々に相続させる」といった遺言がある場合には、その不動産は共有財産には含まれず、その指定された相続人に帰属します。
遺産分割が必要なのは、遺言がない場合、もしくは、「誰々の相続分は3分の1とする」などと、特定の財産ではなく割合を指定しているような場合です。

どういうふうに分けるか?

遺産分割は、以下のような理念のもと行われるべきと考えられています。
・相続人間の実質的な平等と公平
実質的という言葉が意味するのは、単に割合的なものではなく、遺産と相続人の関係を考えた上での妥当性です。
・相続人の意思
たとえ法定相続分と異なっていたとしても、全員がそれに納得しているのであれば、そちらが優先されます。
・遺産の社会的経済的一体性と全体的な価値の尊重
雑な例えで申し訳ないですが、鍋の本体と蓋はセットにして考えようね、という感じです。
・合目的的総合的分割をする
これも分かりにくいですが、単に割合的に分けるのではなく、個人個人の生活や利害関係、思い入れを考慮するということですね。
被相続人と一緒に事業を営んでいた人には、事業で使用していたものがこれからの生活のために大事でしょうし、被相続人の家に被相続人と一緒に住んでいた人なら、思い出のたくさん詰まったその家が大事だと思います。
単に財産的な価値だけではなくて、その人個人にとっての価値の大小があるので、そこもできるだけ考慮しようということです。


誰が何をもらう?

遺産分割

被相続人が亡くなると、その財産は相続人全員の共有になります。
「みんなのもの」というイメージです。
みんなのものなので、勝手に売り払ったり使い込んだりはできません。

このままだと宙ぶらりんなので、このような状態を解消して、これは誰々が相続する、これは誰々が相続する、ということを決める手続きが必要です。
遺産分割といいます。

可分債権の扱い

ただし、金銭債権(お金がもらえる権利です。たとえば、何かを売った代金とか、貸しているお金とか、金融機関の預金とか)など、分けられる債権に関しては、遺産分割を待たずに当然に分割されて、相続分に応じて相続人らに帰属すると考えられています。
損害賠償請求権について、昭和29年4月8日に最高裁が出した判断です。

ただ、銀行預金に関しては、後々問題が生じないように相続人全員の依頼書や同意書、遺産分割協議書がないと払い戻しをしていないようです。
銀行側の手続き的な規則によるものです。

私個人的にも、明日お話しさせていただく遺産分割の理念に沿った分割をするためには、可分債権であっても遺産分割がなされるまでは各自で処分できないようにした方がいいのではないかと思っています。


遺骨は誰のもの?

そもそも「誰かのもの」なの?

遺骨も物理的に存在しているものなので、所有権が発生します。
遺骨も「誰かのもの」ということですね。

ただし、他の財産とは違って、あくまでも埋葬、管理、祭祀、供養という目的の範囲でのみ所有権が認められるとされています。
普通の物の所有権とは、性質上少し違うんですね。

遺骨の帰属

では、遺骨は誰のものなのか?
まず、裁判所は、「祭祀主宰者(さいししゅさいしゃ)」のものであると考えています。
祭祀主宰者は、昨日お話しした、祭祀財産を引き継いだ人のことです。

埋葬、管理、祭祀、供養という目的の範囲でのみ遺骨に所有権が認められるということでした。
これらの目的というのは、祭祀財産に密接に関係しています。
例えば、仏教だと、骨壺に入れた遺骨をお墓に収め、お墓を管理し…
とすれば、祭祀財産の承継者に所有権を認めるのが適切だろうという判断が、最高裁の考え方です。

他の考え方

他の考え方としては、
・遺骨と相続人に帰属するという考え方
他の財産と同様に考えています。
・喪主となるべき者に帰属するという考え方
遺骨は相続財産には含まれず、被相続人と身分関係が最も近いであろう喪主に帰属するという考え方です。
東京地裁の判決に、この考え方に立つものがあります。


お墓を継ぐのは?

祭祀財産

家系図、位牌、仏壇、お墓などを、「祭祀財産(さいしざいさん)」といいます。
これらのものまで、相続財産に入るとしてしまうと、所在がバラバラになったり、相続人間の争いの種になるなどの問題が出てきます。
また、気持ち的にもなんとなく違和感があるのではないかということで、相続財産とは切り離して承継されることになります。

承継の順番

では誰が承継するのか?
民法では、承継者の決め方についても規定されています。
まず、被相続人が、祭祀財産の承継者を指定している場合には、それが優先されます。
指定していなかった場合、慣習に従って決められます。
慣習も存在しなかったりよくわからない場合には、家庭裁判所が決めることになります。

慣習

慣習とは、ならわしとか、しきたりとか、そういったものです。
日本では昔から長男が相続してきたから、長男なのか?というと、そうではないようなんですね。
長男が相続してきたのは、明治時代に日本が採用していた家制度によるものであって、慣習ではないという考えのようです。
もっと狭い範囲、たとえば地域とか集落とかでなにか決まり事がある場合には、それが慣習にあたります。

裁判所の考慮事項

家庭裁判所が決める場合には、以下のことが考慮されています。
・被相続人の身分関係、生活関係
・祭祀財産との場所的な関係(遠いのか?近いのか?)
・候補者に、承継する意思があるのか
・今までどのように管理されてきたか
・その他の関係者の意向など

被相続人と実際に生活をしている人が指定されている傾向にあるように感じます。
例えば、
・別々に住んでいた親族よりも、長年一緒に生活をしてきた内縁の妻に
・先妻の長男よりも、後妻に
といった感じです。