子どもでも遺言できる?

遺言能力

遺言は、遺言の内容を理解して、それがどのような結果をもたらすのかを考えられる程度の能力が必要であるとされます。
遺言能力といいます。

民法では15歳以上であれば遺言をすることができると定めています。
大体それくらいの年齢になれば、遺言能力が備わるだろうという考えですね。

法律行為との比較

ちなみに、法律行為(契約をしたり、お金を借りたり貸したりといった行為)は、未成年は単独で行うことはできません。
法定代理人の同意が必要です。
法律行為を未成年が単独で行えないのは、それによって損害を受けるかもしれない未成年を保護するためです。

遺言は、基本的には遺言をした人が亡くなった際に効力が生じるものなので、保護する必要性はありません。
また、法律行為を単独で行えない人であっても、本人の意思はできる限り尊重されるべきです。
自ら行うべきものなので、代理などに馴染むものではありません。

そのため、行為能力とは別に、遺言能力という概念があるのです。

遺言能力が必要な時

遺言能力は、遺言を作成した時に備わっている必要があります。
15歳以上であっても、遺言能力がないと認められる場合には、遺言は無効となります。

また、成年被後見人(物事を考えて理解する能力に欠ける常況にあると判断されている人)の場合には、遺言をする時に思考がはっきりして遺言能力があることが必要なので、医師2人以上が立ち会って、遺言能力があった旨を遺言書に付記して、署名押印をする必要があります。


遺言書を開けたら5万円取られる!?

遺言書が見つかったら

被相続人が亡くなったあと、遺言書が見つかった場合には、速やかに家庭裁判所に提出して、「検認」を請求しなければなりません。
「けんにん」です。
また、遺言書を保管していた人が、被相続人が亡くなったことを知った場合にも、同様に検認を請求しなければなりません。

ただし、公正証書遺言の場合には、検認は不要です。

検認

検認では、相続人に対して遺言があることや、その内容を知らせます。
また、検認をした日における遺言書の内容(日付や署名など)や状態を確認します。

遺言の有効性を判断するものではありません。
偽造されたり、改変されたりなど、遺言書が後から変にいじられることを防止するための手続きです。

検認を怠った場合

もしも遺言を提出しなかったり、検認をせずに遺言を執行したり、家庭裁判所以外で開けてしまうと、5万円以下の過料に処されるおそれがあります。

過料というのは、罰金のようなものです。
ただ、過料は秩序罰なので、厳密に言うと、刑罰である罰金とは異なります。
罰金は前科がつきますが、過料はつきません。
読み方は「かりょう」ですが、科料(こちらは刑罰です。罰金よりも少額のものを科料といいます。)と区別するために「あやまちりょう」と呼ばれることもあります。


その相続、ちょっと待った!

マイナスの財産

たとえば、被相続人の遺産が200万円の借金と300万円の預金だった場合に、500万円の借金がある相続人がこれを相続するとします。
相続すると、遺産と相続人自身の財産とが混同することになります。
つまり、借金700万円と300万円の預金という状態になるんです。

被相続人の債権者(お金を貸した人)からすると、遺産である300万円の預金の中から200万円の借金の返済を受けられる方がありがたいですよね。

第一種財産分離

そういうわけで、被相続人の債権者や受遺者は、相続人に対して、遺産と相続人自身の財産との混同を防ぐよう要求することができます。
財産分離の請求といいます。

請求ができるのは相続開始から3ヶ月以内ですが、3ヶ月を超えても財産の混同がされる前であればセーフです。

第二種財産分離

反対に、被相続人の遺産が500万円の借金で、相続人自身に200万円の借金と300万円の預金がある場合にはどうでしょうか。
相続人の債権者は、相続人自身の300万円の預金から200万円の借金の返済を受けたいと考えると思います。
相続人の債権者も、財産分離の請求をすることができます。

被相続人の債権者や受遺者の場合と同様、請求ができるのは相続開始から3ヶ月以内か、財産の混同がされる前です。


亡くなってから3ヶ月後に借金が判明!

熟慮期間

以前、自分のために相続が始まったことを知った時から3ヶ月の間に限定承認も放棄もしなければ、単純承認としてプラスの財産もマイナスの財産も引き継がれるというお話をしました。

自分のために相続を始まったのことを知った時というのは、基本的には、被相続人が亡くなったこと、自分が相続人であることの2つの事実を知った時であるとされています。

マイナスの財産を知らなかった時

ですが、貸金業者がこの決まりを逆手にとって、亡くなってから3ヶ月以上経って放棄や限定承認ができなくなった時を見計らって、マイナスの財産があることを知らなかった相続人に取り立てをするというケースが頻発しました。

最高裁は、熟慮期間について、原則として被相続人が亡くなったことと自分が相続人であることを知ってから3ヶ月であるとしましたが、以下のような場合には例外を認めました。

例外が認められるケース

3ヶ月以内に限定承認または放棄をしなかったのが、被相続人に遺産が全く存在しないと信じたためで、かつ、そう信じることについて相当の理由がある場合には、最高裁は例外を認めています。
このような場合には、相続人が遺産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識するだろうという時から3ヶ月以内であれば、限定承認も放棄できるとされます。


遺産分割が終わったのに、新たに相続人が出てきたら

認知の効力

子が認知がされると、その子が生まれた時に効果がさかのぼります。
とすると、被相続人の死後に認知された人は、その人の生まれた時から被相続人の子どもであったことになります。
ただし、その場合でも、第三者の権利を害することはできないと定められています。

では、遺産分割が終わった後に被相続人の子どもが認知された場合、すでになされた遺産分割の効力はどうなるでしょうか?

価額のみの支払い請求

民法では、遺産分割後に認知された子どもは、他の相続人に対して相続分に応じた価額を支払うように請求することができると定められています。
民法910条です。
認知された子どもの権利に配慮しつつ、他の相続人やその財産を譲り受けた人たちの権利にも配慮した、いわば妥協案ですね。

認知以外の場合

では、子どもが認知によって(実際には)後から相続人となった場合以外の場面でも、上記の910条は使えるでしょうか?
たとえば、遺産分割その他の処分後に他に相続人がいることが明らかになった場合、相続分に応じた価額の請求ができるでしょうか?

実はこの場合には、910条は使えないと考えられています。
ではどうなるのかというと、この場合遺産分割は無効になって、再度分割することになります。

910条というのは、相続人から土地や不動産などの現物を引き継ぐという選択をする権利を奪う決まりでもあります。
金銭の請求しかできないのですから。
なので、できる限り使う場面を狭く解釈するように考えられているのです。