相続人がいない人はどうするの?

相続財産法人

民法は、「相続人のあることが明らかでない時は、相続財産は法人とする」と規定しています。

…法人?
よくわからないですよね。
ちょっと説明しづらいのですが、相続人がいることがわからない場合には、相続財産が宙ぶらりんになってしまいます。
これを避けるために、相続人が不存在の場合に用意されている一連の手続きに乗せることになります。
手続きに乗せるために、相続財産自体を持ち主にするといいますか、擬制的に人として扱い、そこに「相続財産管理人」を置くようにしたのです。

「相続人のあることが明らかでない場合」

これも分かりづらいのですが、相続人がいるかどうかがわからない場合のほかに、相続人がいないことが明らかな場合にも、これにあたるとされています。
例えば、周りの親族がすでにいない場合や、相続人にあたる人全員が、欠格になったり廃除されたり、または相続放棄をするなどして、相続権が亡くなった場合です。

ただし、相続人がいることはわかってるけれども、その人がどこにいるのかわからない場合は、これにあたりません。
そのような場合には、相続財産法人は作られず、不在者の財産の管理のための手続きによって処理されることになります。

相続財産の管理

相続財産管理人は、利害関係者や検察官の請求で、家庭裁判所が選任します。
選任されると、公告されます。
相続財産管理人は、相続財産を状況を調べ上げて、財産目録というものを作って、家庭裁判所に提出したり、財産状況を報告しなければなりません。

相続財産管理人選任の公告をしてから2ヶ月経っても相続人が判明しなかった場合には、相続財産の債権者と、遺贈を受けた人(受遺者といいます)に対して、2ヶ月以上の期間を定めて、「債権があるならこの期間内に名乗り出てくださーい、でないと、あげませんよー」という旨の公告をします。

この2ヶ月以上の期間が経過すると、「清算」という手続きに入ります。
相続財産管理人は、申出があったり判明している債権者や受遺者に対して、「配当弁済」をします。
プラスの相続財産から、支払っていくのです。
もしもプラスの財産が、全ての弁済をするのに足りないような場合には、各債権者の債権額の割合に従って弁済されます。
たとえば、500万円の債権者Aと1500万円の債権者Bがいて、プラスの財産が1000万円しかない時には、Aに250万円、Bに750万円が支払われます。

さて、この2ヶ月以上の期間でも相続人が判明しなかった場合、6ヶ月以上の期間を定めて、「相続人いませんかー?いるならこの期間内に名乗り出てくださーい」と、公告します。
これは、相続財産管理人か検察官の請求で、家庭裁判所が行います。

この期間内に相続人が現れなかった場合には、たとえ実は相続人がいたとしても、後から自分が相続人であると主張することはできません。

さて、少し長くなってしまったので、もしどこかの過程で相続人が現れたら!?
というお話は、明日にしたいと思います。


こんな場合には単純承認とみなされます

熟慮期間を過ぎた場合

単純承認は、限定承認や放棄の場合と異なり、「単純承認しますよ」と意思表示をすることは要求されていません。
3ヶ月の熟慮期間内に、限定承認も放棄もしなかった場合には、単純承認したものとみなされます。

また、以下のような場合にも、単純承認したものとみなされます。

相続財産の全部または一部を処分したとき

相続財産の全部または一部を処分した場合には、単純承認承認をしたものとみなされます。
処分というのは、例えば売却したり、債権の取り立てをしたり、3年を超える建物の賃貸をしたりするような場合です。

このようなことをした場合には、あぁ、相続するんだなって思われても仕方ないといえます。
明確に意思表示をしなくても、単純承認をする意思を推認できるので、単純承認したものとみなされます。

相続財産について背信行為があった場合

相続財産の全部または一部を、隠したり、こそっと消費したり、わざと相続財産の目録に記載しなかった場合には、単純承認したものとみなされます。
この場合の相続財産は、プラスのものもマイナスのものも含みます。
限定承認や放棄をした場合でも、このような行為があると、単純承認したものとみなされます。

相続財産の目録というのは、プラスの財産、マイナスの財産、どのような種類の財産がどれだけあるのかを示した書類です。

ただし、放棄をして、それによって相続人になった人が承認した後に放棄をした人が上記の行為をしたとしても、単純承認をしたとはみなされないとされています。


何もしないと全部引き継がれます

熟慮期間

被相続人が亡くなった場合、各相続人が、亡くなった事実と自分が相続人であることを知った時から3ヶ月以内に、限定承認、放棄をしなければなりません。
もし何もしなければ、単純承認をしたものとみなされます。

この3ヶ月の期間は、熟慮期間とか、考慮期間とか呼ばれています。
この間に、相続人は被相続人の財産の内容を調査・確認して、単純承認するのか、限定承認するのか、はたまた放棄をするのかを考えることになります。

相続人に考える時間を与える一方で、原則として3ヶ月で被相続人の財産の帰属等が決まることになるので、権利義務関係を早期に確定させるという目的もあります。

原則3ヶ月としたのは、利害関係人や検察官は、家庭裁判所に期間を伸長するよう請求することもできるからです。

相続人間で、時間差がある場合

相続人が複数いて、それぞれ被相続人が亡くなったことと自分が相続人であることを知った時期が違う場合には、熟慮期間は各人が知った時期からそれぞれ進行します。
ただし、限定承認の場合には、相続人全員でする必要があります。

もし、1人でも熟慮期間を過ぎてしまった場合にはどうなるか?
1人でも過ぎていたら限定承認ができないとなると、ほかの相続人から熟慮期間を奪うことになりますよね。
それでは可哀想だということで、相続人の中に1人でも熟慮期間内の人がいれば、誰かが熟慮期間を過ぎていたとしても、全員で限定承認できるとされています。


被相続人が亡くなった…相続人ができること

被相続人の権利義務、どうする?

誰かが亡くなって自分が相続人に当たる時、できることは3つあります。
単純承認、限定承認、放棄です。

単純承認は、権利も義務も、マイナスもプラスも全てひっくるめて引き継ぐという意思表示です。

反対に、放棄は、一切の権利義務を引き継がないという意思表示です。

では、限定承認とは何かというと、プラスの財産の限度でのみマイナスの財産を引き継ぐという条件付きの承認の意思表示です。
ちょっと分かりにくいのですが、プラスとマイナスでマイナスが多い場合には、引き継ぎませんということです。

限定承認はみんなで

限定承認は、亡くなった人の財産の全容がわからない場合、リスクが少なくてとても便利な制度と言えるのですが、一方で使いにくいところがあります。
それは、相続人が全員でしなければならないことです。
相続人の中に1人でも単純承認を望む人がいると、限定承認はできないのです。
そうなると、限定承認をしたいなと思ってる人は、単純承認か放棄かを選択せざるをえません。
マイナスの財産を抱えるのが嫌な場合には、放棄すればいいでしょというのが、民法の考え方のようです。

ちなみに、相続人の中に相続放棄を望む人がいる場合でも、その他の相続人全員が限定承認を望んでいれば、限定承認できます。
それは、相続放棄をした場合には、その相続人は、最初から相続人ではなかったものとみなされるためです。
相続人全員の中に、相続人は放棄をした人は含まれないのです。


相続相続って言うけど、一体何が引き継がれるの?

相続されるのはプラスの財産だけじゃない

相続されるのは「被相続人の財産に属した一切の権利義務」です。
これは、預金や土地建物の所有権といったプラスの財産のみならず、借金があれば借金も、家を売る契約をしていた場合、家を引き渡す義務も相続されます。

死亡によって消滅するとされているもの

ただし、当事者が亡くなることで、消滅する権利義務もあります。
これに当たる場合には、相続の対象とはなりません。
たとえば、代理契約をしていて、亡くなった人が代理人もしくは本人であった場合、代理権は消滅します。
使用貸借の借主であった場合(無料で何かを借りていたような場合)、借りる権利は消滅します。
誰かに何かを委任したりされたりしていた場合、その委任関係も消滅します。

一身専属権とは

被相続人の一身に専属した権利義務は、例外的に相続されないとされています。

どういったものがこれに当たるかというと、よく挙げられるのが、絵を描く債務や、演奏をする債務などですね。
たとえば、有名な画家やピアニストが、絵を描くという契約やピアノを演奏するという契約をしていた場合、本人が亡くなってそれを相続させて、相続した人に絵を描いてもらったり、ピアノを演奏してもらったりしても意味がないですから。
このように、本人がやってこそ意味があるような権利義務は、本人が亡くなると一緒に消滅します。

また、親権だったり扶養請求権といった権利も、本人と他者との関係性に基づく権利なので、相続の対象とするのが適切ではないと考えられるため、一身専属権に当たり、相続されません。